人は誰しも憧れと希望を持っている、しかし時には目の前の現実と希望の間で心が揺れることだってあるだろう。
ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを舞台に、自由と使命感の狭間で揺れ動くひとりの女性を描いた感動的な作品である。
目次
あらすじ
ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを舞台に、秘密警察の監視のもと西側への脱出を計画する女性が、ある決断を下すまでの日々を描いたドラマ。東独の田舎町の病院へ赴任してきた美しい小児科医バルバラは、西側で暮らす恋人のもとへ脱走する計画を進めていた。しかし、誠実な医者の男に出会い、バルバラは医師としての自分を求められている東の生活と、自由で豊かな西への生活、そして2人の男性の狭間で揺れ動く。
引用:映画.com
キャスト・スタッフ紹介
- 制作国:ドイツ
- 公開年:2012年
- 上映時間:105分
- 監督:クリスティアン・ペッツォルト
- キャスト:ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト、ヤスナ・フリッツィー・バウアー、マルク・バシュケ、ライナー・ボック
田舎町にやって来た美しき女性
ひとりの美しい女性の医師が旧東ドイツの田舎町の小さな病院にやってくるところから物語は始まる。
時は1980年の夏、ベルリンの壁崩壊前の社会主義国家の東ドイツ、主人公の名はバルバラ。
かつて西側への出向申請を出したことに目をつけられ秘密警察シュタージの監視付きで、この地に左遷されるという形でやって来たのだ。
感情という名の防御壁
その美しさと裏腹に冷徹なまでに感情を見せない、それはまるで防御壁でも張っているかのように、全く周りに馴染もうとしない。
おまけにいつでもタバコをふかしランチの時でさえも終始仏頂面だ。
しかしそれは彼女なりの環境適応の手段なのだろう、過去に痛みや傷を負った人であればなおさら自分の弱みは人に見せたくなくなるものである。
新しい病院の同僚アンドレはそんな彼女の心情を読み取り、とてもやさしく彼女に接していくのだが、そんなやさしさにもバルバラは疑いの目を向けてしまい、素直に接することが出来ない。
すべての希望は向こう側
自由を奪われた毎日に神経をすり減らしながらも、密かに企てている西側への脱出計画という希望に向け段取りを立て準備を進めていく。西ベルリンに行けば恋人ヨルクとの素晴らしい生活が待っている。
しかし病院で患者たちに接する中で自分の行いへの正しさを疑いだしていく。
そしてアンドレの自分への愛情や分け隔てない人々への接し方を見て、次第に彼女の心は揺れ始める。
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色彩豊かな風景
旧東ドイツのバルト海沿岸の田舎町が舞台なのだが、終始森の緑や花々の美しさに目を奪われる、これぞ田舎ともいうべきその風景は緊迫した物語を和らげ、どこか安心できる空気を映画全体に漂わせている。
後半アンドレが治療に出向いた先でもらった、ズッキーニやトマトなどの野菜でバルバラにラタトゥーユを作って振る舞おうとするシーンが印象的だ。
ここには都会にはない美しさがあると言わんばかりに、色とりどりの野菜たちはその土地の魅力をバルバラに伝えようとしている、そんな風にも感じられる。
心と風景と繋がり
バルバラは冷静で心情を表出さない、しかし物語が進むにつれ次第に移り変わっていく心模様は、不確かな繋がりながらもそれまで見て来た風景とは別な何かをバルバラの目に映し出そうとしている。
そしてそれはきっと希望であり明るい未来への序章だと信じたい。