広大な風景と言葉が織りなす芸術、カンヌパルムドール受賞作『雪の轍』が描く極限の美しさ

カンヌパルムドール受賞作「雪の轍」を観ました。とても見応えがあり、最後まで見入ってしまうとても深い作品でした。

あらすじ

カッパドキアのホテル・オセロを経営する元舞台俳優の裕福な男アイドゥンは、若く美しい妻や出戻りの妹と平穏な暮らしを送っていた。しかし、冬の訪れと共にホテルが雪に閉ざされていくにつれ、それぞれが秘めていた思いが浮かび上がっていく。また、アイドゥンは家賃を滞納する一家との関係にも頭を悩ませていた。
引用:映画.com

キャスト・スタッフ紹介

  • 制作国:トルコ・フランス・ドイツ合作
  • 公開年:2014年
  • 上映時間:196分
  • 監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
  • キャスト:ハルク・ビルギナー、メリサ・ソゼン、デメット・アクバァ、アイベルク・ペクジャン、セルハット・クルッチ

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は「昔々、アナトリアで」「スリー・モンキーズ」など過去作でもカンヌ映画祭で受賞を果たしているが、日本での劇場公開作品はこれが初となる。

主人公アイドゥン役に、「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋」のハルク・ビルギナー。

言葉の極限が見せる美しい風景

いつだってそれは風景と言葉の狭間に寄り添って、離れようとしない。
過去から現在、未来へと物語を繋いでくための術でもある。

誰も分かってくれない己だけの気持ちを人はぶつけ合う、最終的に分かってもらえる事などないと分かっていても、どうしようもない心のモヤモヤを人は吐き出さずにはいられない。

言葉なんかで解決できる事柄ではないと分かっていながらも、何度も人はこの作業を繰り返す。ルーティンワークともいうべきこの作業により、僕やあなたや君や私は成り立っているのかもしれない。

広大な景色と密室と禅問答

世界遺産カッパドキアの広大な景色の中に佇む洞窟ホテルを舞台に、都市と地方、密室と屋外、饒舌と沈黙、これらがギリギリのところでせめぎ合い、見たこともない色や風景を醸し出す。

3時間半の長編だが堅苦しさは微塵も感じさせない、ここにあるのはどこにでもある人間の営みを、そこにしかない色や音や空気で包み込んだ、どこにでも成立しがちで成立し得ないそんな景色だからだ。

まるでアクション映画のようなスリリングな空気感がヒューマンドラマの中に成立している、そんな言い方も過言ではない、ヒリヒリとした緊張感がつづいていく。

そしてチェーホフの短編3作の作品が発想源になっていて、ドストエフスキーの影響なども色濃く感じることが出来る、濃厚で重みのある見応えのあるストーリーがそこに存在している。

もう少し落ち着こうよという想い

主人公はとても頭が良く、良心的で裕福、とても美しい奥さんもいる。しかし人は揉め事から逃れられない。生きていくのにはいつも面倒がつきまとう。

しかしここで描かれる面倒は、明日死んでしまうとか、これをしないともう終わりだといった、深刻ずぎる事柄でもない。どうでも良くはないが放っておいても、数週間後には何とかなりそうな事とも見て取れる。

主人公の立ち位置も最初はそんな風に落ち着いていて、貸している家の家賃滞納やそれにまつわる揉め事、慈善事業に熱心な妻との関係性や、離婚しで出戻りの同居する妹との関係等々を、落ち着いて対処していく、もう少しみんな落ち着こうぜと言わんばかりに、恵まれた主人公はその暮らしの中に身を置いている。

客観を許さない主観と主観の狭間

見ている側も最初はそんな主人公に感情移入したり、もしくは俯瞰し客観視して見ることができる、しかしどこかのタイミングで突如その視点は失われる。登場人物のそれぞれの想いが現実という名の色彩を帯び始めるのである。

「ああそうだよな、この人の気持ちも分かる」「でも主人公も間違ったこと言っていない」「うんうんそうだよな君も間違ってない」そんな風に登場人物一人一人の想いや気持ちに気づけば同居してしまっている。

いつの間にか登場人物それぞれの視点を、気づけば味わってしまっているのである、俯瞰して何でも見て取れるいわゆる神視点とは対極の、登場人物の視点を移動して憑依していく仙人視点ともいうべき感覚を、味あわせてくれるのである

そして何が正しいとか間違っているとか言った判断は無意味な、それぞれの登場人物が持つ私だけの答えに翻弄されていくのである。

観光地がゆえに見えてくる物事

日本にも海外に観光地と呼ばれる場所はたくさんある、名所や歴史的建造物、はたまた広大な自然などに恵まれた地域である。人々はまとまった休みができればそこに出かけて行き、英気を養いまた普通の生活に戻っていくのである。

舞台となっているカッパドキアも言わずもがなこの観光地に当てはまる、寺院や地下都市カイマクルなどの歴史的建造物や、ラブバレーやギョレメに代表される独特の地形が織りなす風景を目当てに、世界中からたくさんの人が押し寄せる場所である。

主人公は観光産業の中に身を投じ、現地で洞窟ホテルを営んでいる。世界中の大半の人々にとってはそこは観光地として、人生において1度か2度行くか行かないかの場所であり、その後は思い出の中で生き続ける場所である。しかしそこにも生活や営みがあり、様々な人間模様の中で暮らしが執り行われているのである。

映画の中でも観光客や旅行者は、そこで楽しむことや自分の目的を優先していく、主人公の周りで起こるいざこざなんて気にも留めていない。すなわち観光地以外に住み、たま観光地に出向く人々にとっては、この映画の中で描かれる光景は、いわば見過ごしている風景とも言えるのである。

そして変化はそれぞれの中に

ヒリヒリとした空気感と、冬のカッパドキアの美しい風景の中で物語はクライマックスへと向かって行く。解決という言葉だけでは片付けられない些細な物事の変化が、ゆっくりと移り変わる時間のようにそこに横たわる。

気づけば冬も本番になり、観光客や旅行者もまばらになった雪景色のカッパドキアで、何も変わっていないように見えるが、確実に何か変化が生じている。この映画を見終わる頃にはそんな繊細な確信が私たちの中に芽吹き始める。

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映画好きはもちろん舞台好き、文学や音楽好きにもオススメ

密室劇のような要素も見受けられ、舞台や観劇が好きな人にもオススメです。

また、シェイクスピアの歌劇からの引用など文学好きを唸らせる演出や展開もありながら、シューベルトのピアノソナタ第20番が美しく花を添える。音楽好きにも見逃せない作品です。

とにかく3時間という長さを感じさせず、一気に最後まで見ることが出来る作品です。

この監督の他の作品

監督はヌリ・ビルゲ・ジェイランというトルコの監督で、他にも名作を生み出しています。

どの作品も共通して映像がとても綺麗で、脚本もしっかりしている印象です。そんな安定感が世界での評価に繋がっているのではないでしょうか。

昔々、アナトリアで

スリー・モンキーズ

世界遺産カッパドキア

舞台になったカッパドキアははトルコの中央アナトリアの歴史的地域、アンカラの南東にあるアナトリア高原の火山によってできた大地を指し、変わった形の岩がいたるところに見受けられ、その不思議な地形から世界遺産に認定されています

初期のキリスト教徒が隠れ家として岩を削って内部に住んでいたことから、岩石をくりぬいた独自の住居がとても独特の文化を作っています。

主人公のアイドゥンもこれを利用した洞窟ホテルを営んでいます。実際現地には洞窟ホテルや、岩をくり抜いた宿泊施設などがあるようです。

世界遺産カッパドキア一度は行ってみたいですね。

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