いつだって歌うたいは歌う『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』から聴こえる薄暗さの中の希望の歌

売れない若手フォークシンガー身の回りで起こるさえない日常が、ユーモラスなタッチで描かれていきます。

どうしようもなさが付きまとう薄暗く先の見えない生活、1960年の冬のニューヨークを舞台に名もなき歌うたいの男のうだつのあがらない1週間が展開します。

あらすじ

60年代の冬のニューヨーク。シンガーソングライターのルーウィンは、ライブハウスで歌い続けながらも、なかなか売れることができずにいた。音楽で食べていくことをあきらめかけていたが、それでも友人たちの助けを借り、なんとか日々を送っていく。
引用:映画.com

キャスト・スタッフ紹介

  • 制作国:アメリカ
  • 公開年:2013年
  • 上映時間:104分
  • 監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
  • キャスト:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、F・マーレイ・エイブラハム

その薄暗さの中で

売れないシンガーソングライターのルーウィンはその日暮らしの生活を続けています。

周りからの評価はそれなりにあり、ガスライト・カフェというフォーク・クラブのオーナーには気に入られていて、頻繁にそのステージで歌っています。

しかしファーストアルバムは全く売れず、印税もまったく入ってきません。

タバコの煙にまみれた薄暗いライブハウスのみが彼の居場所と言っても過言ではない状況です。

知人宅を転々とする暮らし

ある日良くしてくれる大学教授の友人宅に泊まり、友人が仕事に出て行った部屋で身支度を整え、ドアを開け外に出ようとするのですが、飼い猫が外へ飛び出し、おまけにドアは自動的に鍵がかかってしまいます。

猫をなんとか捕まえ冬のニューヨークの街を彷徨うようにまた別の友人宅へ向かいます。

その女性の友人は友達の彼女で成り行きで関係を持った際に身篭らせてしまうという始末、その数ヶ月前にも別な女性を身篭らせたばかりという本当にどうしようもない男です。

情けなさの向こう側

そんなどうしようもなさの中でもルーウィンは自分の信念を曲げようとはしません。

それは生活するために必要な最低限なものさえも手にすることのできないどうしようもさの中でも、消えることなく微かに輝き続けているように思えます。

時には生活のために商業音楽のレコーディングに駆り出され少しのギャラをもらったりしながらも、本当の意味での自分の信念は投げ出さず自分が良いと思う歌だけを歌い続けているのです。

大物プロデューサーとのオーディションの際も評価されながらも売れる匂いがしないとの理由で、商業主義のグループ・デビューを持ちかけられるのですがこちらはきっぱり断ります。

そこからは音楽や芸術が持つ誰にも伝わらないけどなぜか心地よさを感じる部分というような、しなやかで柔らかなマイノリティさ加減を感じ取ることができます。

実在のフォークシンガーから着想を得た物語

もちろんルーウィン・デイヴィスは映画の中の架空のミュージシャンなのですが、実は日本ではあまりなじみのないフォークシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録から着想を得て作られているのです。

デイヴ・ヴァン・ロンクは60年代、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジで巻き起こったフォーク・リヴァイヴァル・ ムーヴメントの中心人物の一人です。若き日のボブ・ディランも彼に憧れていたという伝説のミュージシャンです。

劇中の音楽の素晴らしさ

音楽映画だけあり劇中の音楽も相当気合が入っています

ボブ・ディラン・バンドのローリング・サンダー・レビューでのギタリストだった、T・ボーン・バーネットが今作のエグゼクティブ音楽プロデューサーを務めています。

映画の中で歌われる楽曲の数々は撮影中に生で録音されているとのことで、ルーウィン役のオスカー・アイザックが実際にギターを弾き歌声を披露しています。その姿や歌声やギターさばきはどこからどう見てもミュージシャンそのものです。

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時代の空気の描き方

音楽映画でありながらそれぞれの役のキャラクター性も素晴らしく、60年代の冬のニューヨークというその時代のその空気が、リアルな質感をもって描かれていきます。

フォークシンガーの男のうだつのあがらない物語とは裏腹に、見終わった後の余韻がなぜだか心地よく感じます。