『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』音楽という魔法で紡がれる柔らかな奇跡

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柔らかな奇跡

1人の女の子を主人公に音楽の持つ素晴らしき力を見せつけてくれるような、とてもきらびやかな物語です。

ベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックが監督し、同名アルバムを元に製作されたミュージカル作品です。

その劇中の音楽はどこまでも心地よく、映像の中に柔らかくも心地よい奇跡のような調べを落とし込んでいくかのようです。

あらすじ

スコットランド、グラスゴー。拒食症で入院している少女イブは、ひとりきりでピアノに向かって作曲する寂しい毎日を送っていた。そんなある日、病院を抜け出してライブハウスを訪れた彼女は、アコースティックギターを抱えた青年ジェームズと、その音楽仲間キャシーと知り合い、3人で一緒に音楽活動を始める。
引用:映画.com

キャスト・スタッフ紹介

  • 制作国:イギリス
  • 公開年:2014年
  • 上映時間:111分
  • 監督:スチュアート・マードック
  • キャスト:エミリー・ブラウニング、オリー・アレクサンデル、ハンナ・マリー

予告編

音楽という魔法

音楽は実に不思議なものです。

音という空気をを伝わる振動でしかない現象が、時に私たちにとてつもない感動や喜びを味あわせてくれます。

その旋律は心という人間の一番繊細で柔らかなものに対して、どうしようもないほど純粋で心地よい作用を残します。

それはすべての芸術が集約してそこにあるといっても過言でないほど、アートの持つ本来の力を体現してくれるかのようです。

スコットランドを代表するバンドである、ベル・アンド・セバスチャンの中心人物スチュアート・マードックが監督した、どこまでも音楽がふんだんに使われた素敵な物語です。

主人公のイヴは拒食症で病院に入院している悩める乙女です。彼女の唯一の救いは音楽です。

好きなミュージシャンの音楽に浸ったり、病院を抜け出してバンドのライブに出かけたりすることが、彼女にとってはかけがえのないことです。

そしてその音楽への愛はリスナーとしてだけでなく、音を奏で作曲するという自らプレイヤーとして、音楽に従事するという行動を取らせることになります。

それは音楽の専門知識や技術を持たないながらも、音楽の本質を知ってしまったがゆえに、すべてを飛び越えて作曲という音を作る行為にイヴを走らせるのです。

やがてアコースティックギターを奏で歌うことが生きがいの青年ジェームズや、そのジェームズが音楽を教えているキャシーと出会い、バンドを組み自らの音楽を世間に披露していくこととなります。

まさに音楽映画ともいうべきこのストーリーは、途切れることがないくらい随所に音楽を挟み展開されて行きます。

それは希望や絶望などといった言葉でかたずけられないほど、健やかで情熱的な促進をもたらしていくかのようです。

人間が当たり前のように歌い奏でてきた音楽は、いつしか神の救いというそれさえも超越してしまったのではないかと思わせるほど、我々の人生において音楽の力はとても偉大です。

神は彼女を助けるか

冒頭の彼女はまさに神に救いを求めているかのように感じます。

自らが作曲した曲を収めたテープのタイトルに「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール(神様彼女を救って)」と付けるところからみても、それはどこまでも救いというものを渇望しているように見受けられます。

悩みというのは自分自身そのものから生まれてくるというよりも、他人との比較という相対的な概念から発生しているケースが多いように思います。

自分が最高だと思っても、他人と比べた時に最高じゃなくなってしまう。これは実にくだらないことだと思います。

そんなことならそもそも他人と比べなければ良いのです。

そして音楽でも絵画でも自分が最高の出来だと思う作品ができたならば、他人というフィルターを通さず、世の中に出してみる必要があるのではと思います。

少しづつ音楽やアートの領域における環境は自由になってきているとはいえ、まだまだ中央集権的な枠組みから逃れることはできていません。

この映画の彼女や彼らがそうであるように、自分が夢中になったことならば、評価や枠組みやそれまでのシステムに縛られず、どこまでも自由にその想いを奏でていくべきなのではないでしょうか。

それこそが誰もが絶対的だと思っている存在から自由になり、本当の意味での救いを手に入れることができるのではないのかと思います。

奏でられるべき調べ

スチュアート・マードックが2009年に出した同名のソロアルバムがこの映画の原案となっいて、そのアルバムの曲を劇中でもふんだんに使っています。

同名のソロアルバム

スチュアート・マードックがベル・アンド・セバスチャンのツアー中に書き溜めていた曲を、オーディションで選んだ2人の女の子をヴォーカリストに迎えて製作した作品です。

ベル・アンド・セバスチャンのメンバーも参加しています。どこかアナログな60sな質感が癖になります。

今作のサウンドトラック

映画で流れる曲順と同様に楽曲が収録されていて映画の余韻も感じさせながら、1つの作品としての完成度や魅力も失わせない素敵なアルバムです。

心地よい休日のような、穏やかな流れを感じさせてくれます。

輝きはその手の中に

成長過程に悩みはつきもので、大人からみればくだらない悩みであっても、当事者はとてつもなくその悩みに苛まれていることもあるのです。

そんな大人が分かってくれない悩みに対して、やはり音楽はどこまでも有効で、類い稀なき未来をそこに提示してくれているかのようです。

それは逃避や一次的な快楽とは違う、芸術のもたらす本当の力なのかもしれません。

音楽の神様はきっと彼女を助けてくれるでしょう。