『マシニスト』不眠という狂気の彼方で巻き起こる奇妙なサスペンススリラー

出典:Amazon

不眠という狂気

1年間365日眠っていないという、極度の不眠症に苛まれる主人公がとある人物との出会いから、奇妙な出来事に巻き込まれていくというサスペンススリラーです。

主役を務めるクリスチャンベールは役作りのために、30kgの減量をしてこの役に挑んだというのだから驚きです。

その作り込まれた世界観は凄まじく、映像や音楽に至るまで奇妙な恐ろしさを増幅させる仕掛けが、至るところに仕掛けられているかのようです。

あらすじ

工場で機械工として働くトレヴァー(クリスチャン・ベイル)は、原因不明の極度の不眠症ですでに365日眠っていない。体も生ける屍のように痩せ細っている彼は、ある日、アイヴァン(ジョン・シャリアン)という大男と出会う。その日から奇妙な事件が次々と起こり…
引用:映画.com

キャスト・スタッフ紹介

  • 制作国:スペイン・アメリカ合作
  • 公開年:2004年
  • 上映時間:102分
  • 監督:ブラッド・アンダーソン
  • キャスト:クリスチャン・ベール、ジェニファー・ジェイソン・リー、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ジョン・シャリアン、マイケル・アイアンサイド

予告編

入り込む奇妙な世界

冒頭から意味ありげな描写からスタートし、その不気味さが奇妙な世界への入り口となるかのように、物語はひんやりとした不気味な世界へと観る者を引きずり込みます。

暗く青みがかった映像が奇妙な世界感をさらに高めます。それはまるで365日間不眠状態に陥った者はこのような世界を見ているのじゃないかと思わせるほどリアルで不気味な風景です。

工場で機械工として働くトレヴァーは不眠日数の365日目を遂に更新してしまい、奇しくも366日目のスタートです。

裸を見せ合う仲の女性から痩せすぎと言われるほどガリガリにやせ細り、工場で働く上司からは薬でもやっているんじゃないかと疑われます。

トレヴァーは不眠症だと伝えても、寝ていないことと痩せてることとの因果関係が見出せない周りの声は冷たいです。

睡眠は人間にとってかなり大事なものですから、365日間も寝なかったら体重が極度に落ちたり、体型が変わってしまうというのも考えられなくもない気がします。

おそらく寝てなければ食欲もなくなってしまうし、五感が鈍くなったりすることもあるでしょう。それくらい睡眠は我々の神経系をいたわる役割を大いに果たしているのだと思います。

しかし、不眠のせいで変化したのは何も体だけではありません。

この不眠の365日目を過ぎたあたりからなんだか奇妙な出来事がトレヴァーを襲うようになります。

抜け出せない悪夢

それはまるで抜け出せない悪夢のように、じっとりとトレヴァーを覆い囲みます。

次から次と巻き起こる不吉な出来事や不可解な物事、それはまるで罰を与えられているかのように感じるほど、容赦無く襲ってきます。

ただの被害妄想なのか、誰かに仕掛けられた罠なのか、その疑心暗技になってく様子をあざ笑うかのように、不気味な世界は追うことをやめません。

奇妙なメモや奇妙な人物など暗く深い場所へと引きずり込むかのような攻防が続いていきます。

サスペンスは恐ろしさや奇妙さはもちろん大事ですが、どこまで視聴者に没入感を与えられるかというのも、サスペンスやスリラーのかなり大事なところなのだと思います。

この映画の没入感はすごいものがあります。

それは青く薄暗い奇妙な映像や、痩せ干そった主人公の体、劇中に登場する人物から様々な小道具まで、すべてがどこか異質でありながらもリアルな質感を持って、こちら側へと訴えかけてきます。

我々が悪夢を見てうなされる時、それが悪夢だと気づかないように、どこまでも現実的な出来事としての悪夢を見せられているかのようです。

光と闇に苛まれて

光は明るく、闇は暗い、これは当たり前のことですが、この映画の映像ではその光さえも飲み込んでしまうのではないかと思えるほど、暗闇の主張が凄まじいです。

それは光は暗闇があるから成立することができるが、暗闇は光がないから成立できるという、皮肉めいた現象が横たわっているのを見透かしているかのようです。

つまり光から逃れることはできても、暗闇から逃れることできないのではないか…

そんな禅問答のような疑問を感じているうちに、トレヴァーは何かから逃れるようにどんどん暗闇の方へと進んでいきます。

それは睡眠という光を遮断する方法を失ってしまったからなのか、暗闇が必要ないのならもっと暗闇や暗黒を与えてやろうとばかりに、その世界の質感は黒く淀んでいくかのようです。

世界観にブレがなく、暗い題材のサスペンススリラーながら、まるで芸術のような流れを描いてくれます。

お見事と言いたくなるほどの、極められた奇妙さと恐ろしさがこの作品からは感じられました。