『レゼタの人生』華やかさの中にある切なさ、滞在という時間における出会い

出典:IMDb

順風満帆に生きること

レゼタという世界中を飛び回るモデルの仕事をしている女の子を主人公とした作品です。

アルバニア出身でメキシコシティに仕事でやってきた、順風満帆なレゼタの身の回りに起こる出来事が描かれていきます。

あらすじ

アルバニア出身の自由奔放でゴージャスなモデルのレゼタ。メキシコシティで気ままな新生活を始めるが、ある日、ミュージシャンのアレックスと出会い…。
引用:Netflix

キャスト・スタッフ紹介

  • 制作国:メキシコ
  • 公開年:2012年
  • 上映時間:84分
  • 監督:フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パーラ
  • キャスト:レゼタ・ヴェリウ、ロジャー・メンドーサ、エミリアーノ・ベセリル

予告編

世界を飛び回って

世界を飛び回る仕事をしている人にとっては、一時的に滞在して仕事をする場所は、当たり前ですが通過点でしかありません。

仕事先から次の仕事先へと飛行機で飛び回り、仕事を終え報酬をもらい、また次の場所へと飛び立つのです。それは旅人とは違ってそこに契約の概念が介在するため、その場所にどれだけいられるかはその契約内容次第です。

この映画の主人公レゼタもそんな契約に縛られたモデルとして、世界中を飛び回り仕事をこなしていきます。

今回の滞在地はメキシコシティです。モデル仲間が宿泊するアパートメントに滞在し、日中は撮影に出向きます。

ここに来る前は東京で広告モデルとして滞在し、このあとはギリシャでの仕事を所属するプロダクションから打診されています。

そんな忙しい生活を送るレゼタは、ここメキシコでのとある広告の撮影の合間に、休憩室用のトレーラーを掃除しにきたアレックスという青年と知り合います。

ロックTにダメージジーンズで、腕はタトゥーだらけのパンクス感満載のアレックス、おそらくバンドマンで日銭を稼ぐために、こういった撮影現場でバイトをしているのでしょう。

レゼタも仕事で行く先々でタトゥーを入れるのが好きなので、タトゥーショップを教えて欲しいとの名目でアレックスと仲良くなります。

2人の会話の中でレゼタが放つ一言が印象的です。

「スペイン語も話せないし、自分がどこにいるのかもわからない」

モデルというお仕事

モデル撮影が終わり現場は商品撮影に移り、レゼタは帰宅のタクシーを待つ間アレックスと再び会話をします。

アレックスは「君も僕も資本家の良いように扱われてるだけだ、僕の方が損してるけど」などと皮肉めいた発言をします。

確かにアレックスの言うことには一理あります。モデルは華やかでその写真や映像を見ただけだと、華やかな世界においてその人が主役のように写ります。

しかし実際はどうでしょう、モデルというのは商品の広告塔という役割を果たしています。

それは資本主義という物を人々が購入することにより成り立つ世界において、その商品の購買欲求を高める役割を果たすために人前に立っているということになります。

つまりモデルは雇われの身でしかなく、クライアント次第でその立ち位置は危うくなってしまうことだってあるのです。

若いうちは重宝がられますが、シワが出てきたり体型が変わってしまったら、途端に捨てられるというような、モデル業界の状況を憂いだ表現とも言えるでしょう。

そしてアレックスはそんな現場の掃除役という、さらに下のレイヤーにいるというのを自虐的に発言したのでしょう。

こういった一連の流れから思わず、Mr.Childrenの隠れた名曲「デルモ」を思い出しました。

華やかなモデルの世界の実情を歌ったようなこの曲は、まさにこの映画のレゼタが置かれている心境と重なる部分があります。

東京―パリ間を行ったり来たりして 順風満帆の20代後半だね バブリーな世代交代の波押し退けて クライアントに媚び売ったりなんかして いつも自己管理 ダイエット 睡眠不足 華やかな様であって 死んだ気になりやってんだ
引用:J-Lyric

歌い出しではこのように、派手で注目される職業の裏にある、モデルの苦労が垣間見れる歌詞が紡がれます。その職業を深く知らない者にとっても、どこかリアリティを感じさせます。

続くサビでは以下のように歌われます。

デルモって言ったら“えっ!”ってみんなが一目置いて扱って 4、5年も前ならそんな感じにちょっと酔いしれたけど 寂しいって言ったらぜいたくかな かいかぶられていつだって 心許せる人はなく 振り向けば一人きり
引用:J-Lyric

華やかな部分にしかみんな目を向けないけど、私だって寂しいし孤独であるという事実が、モデルの当事者目線で歌われて行きます。

華やかな世界の中で

レゼタはその華やかな世界に身をおいているという事実からなのか、かなりのパーティーピープルです。

クライアントや仕事仲間に触れるがままに、毎晩のように喧騒の中へと身を投じていきます。

それはモデルという一見華やかでありながら、実は儚いという職業における通過儀礼のように、たくさんの人が集う場に出向いて行き、お酒を飲みはしゃぎ回ります。

良い感じの関係になったアレックスを放っておいてVIP席に顔を出したり、約束をほっぽり出してイベントに行ってしまったりと、その自由奔放さは次第にエスカレートするばかりです。

アレックスもレゼタはまあそういう世界の住人だからというように、最初は一歩引いた視点で接してるように見えますが、次第に強くなっていくレゼタへの想いから、そういった身勝手な行動に葛藤を覚えるようになります。

尊重するというのはとても大事な行為だと思いますが、世界の違う人間と付き合う場合において、この尊重という線引き加減は非常に難しいものとなります。

様々な職業で成り立ってるこの世界において、この尊重というキーワードを尊重しなければ、何もかもうまく行きません。

しかし、それらを尊重することにおいて自分自身が疲弊してしまっては意味がありません。

タトゥーだらけのパンクスのアレックスですが、実はその心の中はとっても繊細です。

その振り回される様は実に胸が痛くなります。

滞在することのすべて

滞在という営みにおいて、出会いはつきものです。

人が人のいる場所に身を置くということは、それがたとえ一時的な事であったとしても、誰かと出会ってしまうという人間の営みから逃れることはできません。

世界中を飛び回るモデルという職業においてもその出会いがもたらす物語は何者にも代え難いものがあるのではないかともいます。

この物語がハッピーなものなのか、悲しいものなのかは実際に映画を見て判断していただきたいですが、ラストシーンでアレックスが着ていたTシャツの言葉の意味がすべてを物語っているように思います。

滞在する者から現地にいる者の目線をすり抜けるような自由奔放なこの物語は、我々の心の中になんとも言えない気持ちを残して、また次の場所へと旅立って行くかのようです。