どうしようもないほどモラトリアム感満載の、ドラッグに溺れるミュージシャン崩れの主人公が、盗んだ車でタトゥーアーティストの女の子を乗せて、旅に出るというロードムービーです。
単なる青春ラブストーリーではない、かなりかっこいい映像と音楽が楽しめます。
あらすじ
ドラッグに溺れる若きミュージシャンが、生きる意義を見出そうと、盗んだ車に魅力的なタトゥーアーティストを乗せて旅に出る。
引用:Netflix
キャスト・スタッフ紹介
- 制作国:アメリカ
- 公開年:2014年
- 上映時間:90分
- 監督:ジェイク・ホフマン
- キャスト:ネディクト・サミュエル、クリステン・リッター、ニック・ノルティ
すべては白から始まる
白という色はとても魅力的で、そこにあるような何もないような、そんな感覚にさせてくれる色です。
その何もなさは、色という情報が欠落してしまったような、静けさと穏やかさを感じることができます。
すべてを忘れさせてくれるような、すべてをリセットさせてくれるような、そんな感覚を真っ白な色に見出してしまうのは、白という色の魅力であり、むしろ当たり前のことなのかもしれません。
すべては何もないところから始まり、いつの間にか混沌に向かっていて、それが限界に達した時、人はすべてをまっさらな状態に戻したいと思ったりします。
リスタートそれもまた、真っ白な色がよく合う状態と言えるのではないでしょうか。
どうしようもない季節
冒頭で主人公ガスはどうしようもなさをあらわにしいます。
自暴自棄を極めたような態度で、日銭を稼ぐための仕事である、ペンキ塗りをしているのですが、そこにはやる気のなさが見て取れます。
答えのない禅問答のようなことをブツブツ言いながら、壁に白いペンキを塗っています。
一緒に壁を塗っている同僚もその態度には呆れ顔、今日はもう帰っていいよと言われる始末。
そして、その帰り道なんとなくカッコつけながら、街をぶらつき自宅へと向かいます。
音と映像のコントラスト
そんなダメな主人公ガスと、きらびやかな街のコントラストが際立った映像はとても美しく、人生のふわふわとした猶予期間が醸し出す、どこでもないどこかを映し出すかのようです。
この美しい映像の中に、この映画1発目のサウンドトラックが流れてくるのですが、それがなんと、元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんの「ずぼんとぼう」という曲です。
アメリカのニューヨークに住む、バンドマン崩れの青年を主人公にした映画で、日本語の音楽が流れるというのはかなり意外です。
この曲がまたゆるゆるなサウンドで、どうしようもない雰囲気が漂う、主人公のガスにはハマっています。
ゆらゆら帝国解散後に発表したソロ1作目「幻とのつきあい方」収録されていて、程よくゆるくだらけた感じに、なんとなくマッチするそんな曲です。
この音楽をバックに、日々のうやむやをあらわにしながら、ガスは帰路につきます。
全体的に良い雰囲気のかっこいい映像が続いていくのですが、特にこのあたりの冒頭のシーンは、かなり気合が入っているように感じられました。
自暴自棄の果て
そして部屋に帰ったガスは、ひとしきりまどろんで一眠りした後に、部屋中に真っ白のペンキを塗りたくり始めます。
部屋中の壁や本やレコードから、ありとあらゆる家具にまで、真っ白なペンキをぶちまけます。
もうどうにでもなってしまえと言わんばかりに、傍若無人にひとしきり暴れまわり、最後には自分自身真っ白なペンキをかぶり、首に縄を巻きつけ自殺を図ります。
最終的に彼は自殺に失敗し、一命を取り留めることになるのですが、ここからが本当の物語の始まりです。
ペンキを撒き散らした時の犠牲になった、白いペンキで汚れた黒いブーツを履いて、とりあえずまた街へと繰り出します。
盗んだ車で走りだす
もうすべてがどうでも良くなったガスは街をぶらつき、ホテルの前に泊まる白いオープンカーのロールスロイスを盗みます。
そしてドラッグを買いに売人の元へ車を走らせます。
それは救いようのなほどバカで、後先をまったくと言っていいほど考えていない、とても頭の悪い行動ですが、もうすべてがどうでも良くなってしまっているガスにとっては、そんなことはどうでも良さそうです。
そしてその帰り道に、以前とあるバンドのライブで知り合って、密かに気になっていたルビーという美しい女の子を見つけます。
車の中から声をかけ、ちょうどコチカネットの田舎に帰るところだというルビーを乗せて、ここからロードムービーが始まります。
素直になれずに
ガスは明らかにルビーが好きで、ルビーもまんざらではないのですが、ガスはイマイチ踏み込むことができません。
それはいくつかの問題があるのですが、やはりドラッグがやめられなず、お金もなく仕事もままならない自分のという、どうしようもないダメさ加減を抱えている後ろめたさがそうさせているように見て取れます。
それは物悲しいパノラマの地続きの風景のように映りますが、人は失敗してもやり直せるという、誰にでも共通の突破口がまだ残されています。
しかし、ガスはそんな突破口を裏切るかのように、何度も売人の元へ走りドラッグを買い込み、自らの腕にそのひとときの快楽を流し込みます。
それは、人生の猶予期間を引き延ばすかのように、呆れ顔の友人たちやルビーの冷たい視線をかいくぐって執り行われます。
果たしてそこに未来はあるのか、ひたすらにこだわり抜かれたカメラワークとサウンドトラックをよそに、ガスのモラトリアムな旅路は一体どこへ向かうのでしょうか?
ちっぽけだけど1人前
誰もが自分に自信が持てない時期というのはあります。
しかしそんな時こそ、自暴自棄にならずに少しでも穏やかな気持ちを保とうとすることが、大事なような気がします。
ちっぽけでどうしようもない自分だけど、とりあえずやってみようという、前向きな気持ちが少しでも保てれば、その先に明るい未来は垣間見れるのではないでしょうか。