静寂という名の傍観『ザ・トライブ』それは冷たくささやくような仕草で

Photo by:Yahoo映画

登場人物の全員が耳が聞こえない聾唖者の、全編が手話のみで描かれるという異色の作品です。

そこにはセリフが一切ないため、当然のことながら字幕も吹き替えも存在せず、淡々と静寂の中を登場人物の手話と振る舞いが続いて行くという、独自の世界観をどこまでも押し広げた衝撃作です。

プロの俳優ではない、実際の聾唖者たちが役を演じています。

あらすじ

聾学校に入学したセルゲイ。一見平和で穏やかに見える学校の裏には、暴力や売春を生業にする組織=族(トライブ)が幅を利かせていた。セルゲイも次第に組織の中で頭角を現していくが、リーダーの愛人アナに恋をしてしまう。そのことがきっかけで組織からリンチにあったセルゲイは、ある決断をする。
引用:映画.com

キャスト・スタッフ紹介

  • 制作国:ウクライナ
  • 公開年:2014年
  • 上映時間:132分
  • 監督:ミロスラブ・スラボシュピツキー
  • キャスト:グリゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノビコバ

静かなはじまり

冒頭は道路の向こう側から遠巻きにするような、俯瞰した定点カメラのような視点から、路面電車の駅の風景が映し出されます。

何人かの人物の動きと重なるように、路面電車が行き来していきます。

それはまるで何事もないような平和な風景を映し出し、沈黙というものがあるべき姿でそこに横たわっているかのようです。

そんな中、主人公の少年が身振り手振りで、路面電車を待つ婦人に道を聞いています。

それは決して大げさなアクションではありませんが、道の向こう側という離れた場所からでも、その仕草から少年の目的を確認することができます。

主人公のセルゲイは聾学校に入学するためにこの町にやってきたようです。

そこは悪の巣窟

セルゲイは目的地の聾学校にたどり着き、無事に入学することができました。

ぱっと見は穏やかで平和な普通の学校といったところです。しかし、そこは暴力が当たり前で、売春で金を稼ぐに組織(トライブ)が幅を利かせている、腐敗しきった環境でした。

セルゲイはなされるがままに、仲間や先輩からの暴力的な仕打ちを受けますが、セルゲイの体格や何事にも動じない振る舞いを周りは気に入りだし、次第にセルゲイも不良の仲間として頭角を表していきます。

会話も音楽も字幕さえない状態で、ただただその風景は映し出されていきます。

それは説明がないというだけではなく、見守る物や傍観者さえいない環境なのではという錯覚を起こさせ、我々はただただその光景を見つめているといった状態に陥ります。

すべては静寂の中で

すべては静寂の中で執り行われ、画面の中の暴力的な行いやそれに伴う登場人物たちの感情さえも、受け流されてしまうのではないかというくらい残酷なまでの沈黙が続きます。

しかし、それは決して情報量が欠如しているわけではなく、圧倒的な情報量をあらわにする静寂であり沈黙です。

そこには僕や君や彼らがといった主体的、客観的な表現さえもふさわしくなく、ただここにいるという事実がもたらす壮絶な感情と臨場感が伴った情景といったところです。

耳鳴りや空気の音さえも、ここではその静寂に飲み込まれ沈黙してしまいそうです。

傍観するかのような視点

少し遠くから映し出すようなカットを多用したカメラの視点は、どこまでもその出来事を傍観しているように感じられます。

それは誰も止める者がいない喧嘩が目の前で行われているような生々しさを感じさせ、時間の息づかいさえも感じさせないほどに、殺伐とした世界をそこに落としていきます。

歩く登場人物を追いかけるようなカメラワークも多く見受けられますが、それでもどこか他人行儀でよそよそしく、まるで登場人物たちの世界を邪魔をしないような振る舞いに感じられます。

他人事といった気の利いた仲間意識さえもそこにはないように思えてきます。まさに傍観者という言葉通りの視点をどこまでも我々に与え続けます。

時間の喪失

観客はこの静寂の中で行われる光景を、ただただ見つめているといった状態にいつの間にか陥ります。

そこには台詞や字幕といった、物語を語ってくれる気の利いた仕掛けや、場面や風景の臨場感を増幅させる音楽もないので、通常の映画で感じられるような感情の動きを伴った時間軸さえもを感じることはできません。しかし、それでも物語は進んでいきます。

そして、いつのまにか主人公のセルゲイは当たり前のように悪に手を染めていき、我々観ている方が気がついた頃には、すっかり悪の組織の仲間入りを果たしています。

時に静寂や沈黙は時間の感覚さえも失わせ、さらには物語という映画において最も重要な位置を占める概念さえも、取っ払ってしまうのです。

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観る側の立ち位置

映画を見る者にとって物語というのは重要や役割を果たしているはずです。

それによりさまざな感覚が我々の内側に解き放たれ、映像が放つ文脈性を理解することに繋がるからです。

しかし、この映画ではそういった通常の物語やありふれた文脈が徹底的に排除されているように感じます。それは、実験的な試みとはまた違う、静寂や沈黙の可能性を追求する新たな試みともいえるでしょう。

そして、そういった状況を目の当たりにした我々は、なぜか不思議な味わったことのない感覚に覆われ、また一つ映画の持つ大いなる可能性に圧倒されることとなるでしょう。