世界のクラブシーンを股にかける、絶大な人気を誇るDJイカロスの光と影を描いた物語です。
ミニマルでテックなビートのサウンドトラックが全体を包み、物語は進行していきます。
ダンスフロアの裏側にある、成功と挫折を描いたドラマです。
あらすじ
イカロスは絶大な人気を誇るDJ。世界のクラブシーンを股にかけ、まさに成功の絶頂。しかしそれもつかの間、ドラッグのやりすぎで、精神病院に収容される。
引用:Netflix
キャスト・スタッフ紹介
- 制作国:アメリカ
- 公開年:2008年
- 上映時間:105分
- 監督:ハネス・シュテーア
- キャスト:パウル・カルクブレンナー、リタ・レンギール、コリンナ・ハルフォーフ
4つ打ちという無敵さ
4つ打ちには不思議な魔力があります。
ミニマルテクノであれ、ディープハウスであれ、4つ打ちという等間隔で鳴り響く低音は、衝動のみで彩られた興奮を拡張するような音楽とはまた違う、冷静でありながらどこまでも高みへのぼりつめるような、高揚感のある音を奏でます。
ズンズンと響いてくるバスドラムの低音は、クラブで踊る人々に適度な心地よさを与えつつも、まるで自分が何者にでもなれるような、不思議な無敵さを与えてくれているような気さえします。
だからこそ人々は真夜中にあのような、閉鎖的な空間へと足を運び、人々がひしめき合う中で踊り明かし、夜という魔法を使い果たしているのではないでしょうか。
そしてそれはひとときの快楽とは異なる、新たな発見を与えてくれる音楽の力が、作用している空間である気がします。
DJというお仕事
DJはそんな夜を彩るのにふさわしい音楽を、その場その場の空気を掴んでかける、真夜中の魔法使いのような仕事と言えるかもしれません。
人々の日々の疲れを、ビートに乗せて洗い流し、新たなメッセージや癒しを、我々に与えてくれるのです。
時にはダンスフロアで人々を踊らせるだけではなく、自身の部屋やスタジオに篭り、オリジナルの楽曲制作に明け暮れ、また一つ新しい魔法のようなビートを、世界に生み出してくれているのです。
それは憧れだけでは到達することのできない、血と汗と努力が絡まった、類稀なる世界です。
世界を股にかけて
主人公のDJイカロスもまさに、夜のダンスフロアに魔法をかけ続ける、DJであり音楽家です。
地道なDJ活動と、何度かのアルバムリリースを重ね、世界中のクラブを股にかける、トップのDJとして活動しています。
まさに人気の絶頂で毎日のように空港から空港へと飛び回り、フロアを盛り上げては、合間にラップトップを開き、新しい音作りにも余念がありません。
まさに、世界中のDJたちが憧れるような活動をイカロスはしています。
忍び寄る魔物
しかし、そんなDJや音楽家に忍び寄るドラッグという魔物、こいつは本当に厄介なものです。
使い続ければ心身に支障をきたす代物にもかかわらず、DJやミュージシャンなどの中からドラッグにはまり込んでしまう人が出てくるのも事実です。
イカロスもまさに抜け出せない、ドラッグの沼に片足を突っ込んでいました。
そして人気絶頂ということもあり、その忙しさや疲れを忘れるためや、新しいアルバムリリースのプレッシャーを打ち消すために、使用量や薬の強さがどんどんエスカレートしています。
その姿ははたから見れば、快楽の奴隷であり、一瞬の快楽のための犠牲者としか見えません。
すべてが悪循環の中に
自分のDJプレイが終われば、大量のドラッグをキメて街を徘徊します。
アルバム制作のために作っている楽曲も、その影響からなのかどこか暗く、退屈で単調なビートになってしまい、レーベルのオーナーもアルバム発売に難色を示し出します。
ある日、ラリって街を徘徊し超えてはいけないラインまで行ってしまい、事態を重く見た恋人でありマネージャーのマルティダは、薬物治療の特化した精神病棟へとイカロスを強制入院させます。
しかし、長年無茶をしてきたイカロスの精神は限界を超えており、医師や自分と同じ立場である同じ入院患者たちに悪態をつき、しまいには病院を抜け出しドラッグの売人の元へ走り、入院中の身でありながらドラッグを摂取してしまう始末です。
しまいには、マルティダやレーベルオーナーにも見捨てられ、状況はどんどん悪化していきます。挙げ句の果てにとんでもない行動を起こしてしまい、隔離病棟へと強制的に移されます。
やがて少しづつ、回復の兆しは見え始めるのですが、果たしてそのようなどん底から、どのようにして再び音楽家として復活していくのか、アルバムは無事に発売できるのでしょうか?
まさに、クラブミュージックの本場ドイツだからこそ描くことができたであろう、人気DJの光と影を描いた感動作です。
主人公は本物のDJ
主人公のイカロスを演じるのは、本人もDJ/音楽家としてドイツでは絶大な人気を誇る、パウル・カルクブレナーが演じています。
その演技は演技と思えないほど、音楽家の苦悩を感じさせます。
劇中で流れる音楽もパウル・カルクブレナーが手がけています。
使用されている楽曲を中心とした、映画と同じ『ベルリン・コーリング』という名前を冠にした、アルバムも映画の公開と同時に発売し話題になりました。
音楽の力
音楽家の苦悩と再生を描いた物語は数多くありますが、ドイツの街ベルリンという、テクノやハウスなどのクラブミュージックの本場で描かれるこの物語は、EDMやダブステップなどの電子音が鳴り響くのが普通になった現代において、とてもリアルな質感をもってその情景を映し出します。
苦悩の中から生み出される、ストイックでありながらきらめくような、電子音の響きをぜひ味わってみてください。